本山町は、四国の中央に位置し四方を標高1000m級の山々に囲まれている。
また、北側には標高1500m級の工石山や白髪山の石鎚山系が連なる風光明美な町である。
高知市から北に向かって車で約1時間の距離にあり、町面積は、134.21平方キロメートルで、そのうち91%を山林が占める。
産業は、第一次産業が主力であり、林業、米、園芸、特用林産物などを組み合わせた複合経営が行われている。また、「花の町」としてシャクナゲや桜などの見所も多く、春には町のいたる所が美しいピンク色に染まる。
町の中央には、日本三大暴川の一つ四国三郎「吉野川」が流れ、上流部には、「四国の水瓶」と言われる早明浦ダム(左岸側が本山町)が存在する。人口は、平成24年12月1日で3,877人、高齢化率(65歳以上の人口が占める割合)は41.0%の中山間地域である。
町面積の91%は山林であるが、約180haの水田が存在している。これらの水田は、吉野川両岸にある幾多もの支流を水源として、急峻な土地を切り開き、等高線に沿った湾曲した棚田として形成されている。また、急峻である地理的条件から、水利の整備やほ場整備がされていない状態である。しかし、この地域の農家は、水田へ水を引き入れるため、谷川から何kmもパイプを張り巡らせる工夫や機械の乗り入れが困難な水田は手作業で管理するなど、大昔から継承された棚田を守ってきている。
また、これらの水田を維持していくには、水田面積よりも広い畦畔の草刈りや畔塗り、水管理など、ほ場整備された平坦な水田に比べると非常に耕作条件が不利なことから厳しい経営となっている。この状況において、さらに拍車をかけるように米価の低迷、肥料の高騰などにより、水稲での経営が困難な状況となっている。このようなことから、魅力のない稲作農業となり、後継者が育たず農家の高齢化が進行している。このままでは、棚田の耕作放棄地を増加させることとなり、水田と共に築かれてきた農山村の暮らしや環境も崩壊しかねない状況にある。
この状況を不安に思う農家たちは、平成20年2月生活の基盤である水田を守り、経営を安定させ魅力ある稲作農業の創造を目指し、本山町特産品ブランド化推進協議会(以後協議会)を設立した。
しかし、ブランド化と言っても、コメは日本中で生産されていて全国的に過剰の状況である。
また、高知のコメと言えば早場米や二毛作などのイメージがつよく、これから消費者に根付くブランドとなるには、どの様にすれば良いのか。大きな問題に突き当たることとなった。
そこで協議会は、この地域にある付加価値を模索するため、試食アンケートの実施や地域の歴史の掘り起こし、地域に残る環境、良食味の品種や生産方法の追及など1年間の調査を重ね、ブランド化戦略を策定したのである。
こうして生み出されたのがブランド米「土佐天空の郷」である。21年産米から販売を開始した「土佐天空の郷」は、取り組みなどが評価され様々なメディアに取り上げられた。また、全国各地で開催される品評会に出品しており、米・食味分析鑑定コンクールでは、21年産、22年産と特別優秀賞、23年産と24年産は連続して金賞を受賞している。
さらに、22年11月に開催された「お米日本一コンテストinしずおか」では、西日本で初めて、コシヒカリの品種以外でも初めて最高峰の最優秀賞に選ばれている。
この話題は、大きく取り上げられ日本一おいしいコメとして知名度を高めたのである。
また、全生産農家は、先人が残した環境をより良い形で後継者に繋ぎたいと県が認定するエコファーマー(土づくりや減化学肥料、減農薬など環境に配慮した農業者)を取得し、環境に配慮した農業を推進している。
知名度が高まり始めたコメの影響もあり、生産地である棚田には、写真家や観光、視察の方などが訪れるようになっている。
本山町の棚田のほとんどは山林に覆われ一望できる場所は少ないが、吉延地区、大石地区の棚田は、吉野川の支流、樫ノ川の両岸に広がる棚田がその河川沿いに奥深く一望出来る場所である。
ここを訪れる方々は、「この風景は、まさに日本の原風景、人々の心を和ませ魅了させる」などと語る。
これまで、耕作悪条件の中で経営の一部としてのみ維持されてきた棚田が今、町の代表的な観光の拠点として変貌を遂げようとしている。
協議会は、コメの品質や食味を高めるだけでなく様々なイベントを行っている。全国各地のコメの販売店を招いた産地見学ツアーや県内の親子を招いた「田んぼの生き物調査隊」、水田の果たす役割やその大切さなどを伝える勉強会などを開催している。さらに「天空の郷芸術祭」と題し、古代米を使った田んぼアートの製作や収穫祭、棚田の一画を会場にしたコンサートなど、農家と消費者とのふれあいで心に残る棚田「土佐天空の郷」の創造を目指し取り組みを続けている。
「土佐天空の郷」の取り組みは、始まったばかりである。コメのブランド化の取組みにより、棚田の保全や地域活性化に繋なげ、様々な分野に波及効果として拡がることを願い取り組みを続けていくものである。